ジャムリスが配給隊に入った日、最初に渡されたのは銃ではありませんでした。

小さな鉛筆と、角の丸い台帳でした。

そこには、粉袋の数、塩の残り、薪の束、焼けるパンの個数、届け先の村、荷車の車輪の傷み具合まで、細かく書き込む欄がありました。

「パン屋の仕事と同じでしょう」

そう言った隊長の声は、やさしくありませんでした。けれど冷たくもありませんでした。ただ、疲れていました。

ジャムリスはうなずき、粉の量を数えました。

一袋で丸パンが百二十個。

水が足りなければ百個。

塩を減らせば、もう少し増やせる。

けれど、塩を減らしたパンは傷みやすい。傷んだパンは腹を壊す。腹を壊した者は歩けない。歩けない者が増えれば、荷車は進まない。

パンは、ただ焼けばよいものではありませんでした。

その日、ジャムリスは初めて、パンを地図の上で見ました。

蜂蜜丘の避難所へ三十個。

橋のたもとの衛生班へ四十個。

北の森の見張りへ六十個。

そして、前線へ二百個。

前線。

その文字だけ、台帳の中で黒く沈んで見えました。

ジャムリスは鉛筆を止めました。

「これを届けると、戦いが続くんですか」

隊長は少し黙りました。

「届けなければ、先に飢えが来る」

それは答えになっているようで、なっていない言葉でした。

けれどジャムリスは、その意味をすぐに知りました。前線の手前には、兵だけでなく、逃げ遅れた家族がいました。古い橋を守る者の後ろには、橋を渡りたい子どもたちがいました。衛生班の鍋の横には、腕を失った若いくまと、熱を出した老いたくまが同じ毛布にくるまっていました。

パンを止めれば、戦争も止まるのか。

いいえ。

たぶん、先に弱い者から倒れるだけでした。

ジャムリスは台帳に線を引きました。太い線ではありません。荷車が通れる細い線です。

村から倉庫へ。

倉庫から焼き場へ。

焼き場から荷車へ。

荷車から、誰かの手へ。

その線は、祈りのようにも見えました。けれど同時に、戦争を生かす血管のようにも見えました。

夕方、ひとりの子どもが配給所の隅で聞きました。

「兵隊さんも、ぼくたちと同じパンを食べるの」

ジャムリスは、少しだけ迷ってから答えました。

「同じパンだよ」

子どもは安心したように笑いました。

その笑顔を見て、ジャムリスは胸の奥が痛くなりました。

同じパンが、子どもを眠らせる。

同じパンが、兵を立たせる。

同じパンが、明日の命をつなぎ、明日の戦いを終わらせない。

夜、焼き場の火が小さくなってから、ジャムリスは台帳の端に小さく書きました。

食べさせることは、救うこと。

食べさせることは、回すこと。

その二つは、ときどき同じ荷車に乗る。

翌朝、丸パンは布に包まれました。

まだ温かいまま、荷車へ積まれました。

丸いパンは、砲弾より先に前線へ届いた。